認知症高齢者に対応する支援体制づくりに向けては、ケア技術・知識の向上にとどまらず、医療と介護の連携強化や認知症になっても暮らしやすいまちづくりなど、様々な側面からのアプローチが行われています。まさに、立場やサービス形態の枠を超えての「新しい認知症ケア」が始まっています。この新しい認知症ケアとは、認知症の症状への対処に焦点を合わせるのではなく、認知症の症状があってもその人の尊厳を支え、家族や地域社会との関わりを保ちながら、その人らしい、当たり前の暮らし方を目指すことを意味します。
しかし、こうした新しい流れができつつある今も、認知症ケアに取り組む実践現場では、旧来のケアからなかなか抜け出せない、あるいは認知症という病気やケアに関する理解不足により、症状をさらに悪化させてしまう悪循環が生じている場合も少なくありません。
ケアに携わる援助者は、認知症の人の言葉や行動にばかり目を奪われてしまい、背景にある本人からのメッセージやシグナルに気づけないでいることが多いのではないでしょうか。そのシグナルに気付いていくためには、援助者がそれを読み解く力を身につけ、その人の生活背景や事象の前後について状況分析を行いながら、『本人にとっての問題』をひも解いていくことが大切です。
私たちは、まず、援助者が「困難」と感じていることについて、一定のプロセスを踏みながら思考整理の手伝いをすることが大切だと考えました。そこで開発したのが、困難や課題と考えていることを明確にし、事実に基づいた情報の整理をしながら本人の求めるケアを導き出す(ひもとく)ための「ひもときシート」です。このシートが、あなたと認知症の人の距離を縮め、向き合える一助となることを期待しています。