Aさんは病院ではハイリスクのためか紐やベルトで拘束されており、眠剤にて終日傾眠があり、食事もあまりとれていなかった。入居以後眠剤を減らしたところ、昼夜逆転傾向が出現する。
本人は、退院後は他の病院で治療をするか家に帰れると思っていたことや、高次脳機能障害から病識が薄く、歩けると思っていることから、介助者の手を払いのけたり「警察を呼べ」などと怒鳴ったりすることがある。
24時間を通して見守りやセンサーの使用が必要であるが、そのためかAさんには拘束感がありスタッフの少ない勤務帯では対応困難になることもしばしばある。家族は病院と施設でのAさんの様子の違いに困惑しており、本人・家族・介護者それぞれが苦しんでいる状態であった。
Aさんの、病識やリスクに対する認識が乏しく、現状を受け入れることが困難であり、スタッフも事故防止に必死で余裕を持てず、本人の気持ちに寄り添えていない。
(本人・家族・介護者が)互いに受け入れ認め合う
年 齢 | 70歳代半ば |
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性 別 | 男性 |
職 歴 | 小売業、事務職など多数ある |
家族構成 | 妻・長男・孫二人と同居していた。交通事故により病院に入院。現在介護老人保健施設入居。 |
認知機能 | HDS-R:入居2週間後は測定不能、入居3カ月後は18点 |
要介護状態区分 | 要介護4 |
認知症高齢者の日常生活自立度 | Ⅲb |
既 往 歴 | 外傷性くも膜下出血・急性硬膜下血腫・頭蓋骨骨折・脳挫傷・水頭症 |
現 病 | 後遺症 (高次脳機能障害・注意障害・認知能力低下・軽度左麻痺・不活発性による全身の筋力低下) |
服 用 薬 | ハルナール・デパケン散・センノサイド |
コミュニケーション能力 | 正常 |
性格・気質 | 家族は「短気」と。本人は「好奇心旺盛・前向き」と。入居以来感情の起伏が激しい。 |
A D L | 【食事】 食べこぼしあり、エプロンを使用し一部介助 【排泄】 尿意や便意の訴えが頻回にあるも排泄にはつながらず、失禁が多い 【移動】 歩こうとして立ち上がるが、すぐに転倒する。車椅子は操作が分からず全介助 【移行】 腰か脇窩を支える介助が必要 |
障害老人自立度 | B2 |
生きがい・趣味 | 生きがい:孫の世話をすること 趣味:書字・絵画・読書・旅行・姓名判断など多趣味 |
生 活 歴 | 父親は自営業を営んでおり、教育熱心。Aさんは地元の有名高校を卒業し一旦小売販売業に就職するが、大学へ行きたいとの思いが強く、一年間働きながら勉強し、有名大学へ進学。経済学を学ぶ。大学卒業後恩返しのつもりで再び小売販売業に従事し、しばらくしてから転職したとのことであるが、詳細不明。 知人の紹介で見合い結婚をし、一女・一男をもうけ、それぞれに二人ずつ計四人の孫がいる。多趣味であり、定年退職後は自宅の自室で読書など好きなことをし、食事も簡単な料理ならできるため、食べたいときに食べたいものを食べるなど気ままに暮らしていた。長男家族と同居しており、孫の世話をするのを生きがいとしていた。 2年程前、交通事故により入院。高次脳機能障害などが残る。妻・長男は就労にて日中ひとりになるため在宅介護は難しいとのことで入居、現在に至る。 |
人間関係 | 面会は週1~2回長男が洗濯物を取りに立ち寄るほか、時々妻・娘・孫が遊びに来る。家族以外の面会はないが、元々は社交的で話好きであり、機嫌が良ければ他利用者やスタッフと談笑する。しかし、入居以来不機嫌で表情が険しいことが多い。 |
本人の意向 | 家に帰りたい。家族と過ごす時間を多く持ちたい。 |
事例の発生場所 | 介護老人保健施設 |