「事例を探す」

事例概要 事例58

タイトル:レビー小体型認知症で意思疎通が難しいAさんの体調管理について

Ⅰ.<事例の状況>

 ちょっとした気温の変化、季節の変わり目に体調を崩しやすい。食事のとき(離床して車椅子使用)は、手足が冷えやすいため温かくして食事をする。食事が進むにつれ体温が上昇する。顔色・鼻水・くしゃみなどの様子を見て調整している。ベッドへの移動は速やかに、身体が冷えないようすばやく上着類を脱ぎ臥床している。
 厚着をしているせいか就寝前の体温は36.7度、36.9度。足は冷たいので温まるまでアンカを使用し、しっかり布団を掛け(首元が冷えないように)頭の周りにも肌がけを丸めて覆う。室内の乾燥にも弱いので加湿器をつけることにより温かくなる。夜間、咳・カラ咳があり(唾液で誤嚥することもある)様子を見に行くと、腕・胸元を布団から出していたり、そうでないときは布団の中の熱がこもり体温が上昇する。熟睡しているときは布団の中で多量の発汗のため更衣、覚醒してくれたときは水分補給を行う。掛ける布団の厚さがとても難しく、発汗しているのではと気になり、布団の中にそっと手を忍ばせて確認してしまう。

Ⅱ.<提供者自身が感じている事例の課題>

体温調節がうまくできず、体調を崩しやすい。就寝中の発汗(寝汗)。

Ⅲ.<事例概要>

年齢・性別 80歳代後半・女性
職  歴 専業主婦
家族構成 長女
認知機能 N式精神機能検査
 ・7年程前66点
 ・6年程前61点
 ・現在   0点
要介護状態区分 要介護5
障害老人自立度 C2
認知症老人自立度
ADLの状態 ①食事の様子 全介助
②排泄の様子 全介助
③移動の様子 全介助
④着脱の様子 全介助
⑤入浴の様子 全介助
⑥整容の様子 全介助
認知症の診断名 当初アルツハイマー型認知症との診断を受けたが、その後専門医に受診し、レビー小体型に最も近い重度認知症との診断を受ける
現病・既往歴 【現病】
 認知症(レビー小体型の症状に近い認知症との診断で、水頭症のような状態でもある)
 肺炎を頻発する状況が継続
 自力での口の開閉が不十分なため定期的に口腔ケアを受けている
【既往歴】
 30歳代 強迫症で入院し精神療法を受ける
 60歳代 パーキンソン症候群(小刻み歩行や仮面様顔貌が出現)
 70歳代 アルツハイマー型認知症の診断を受ける
      (のちに専門医によりレビー小体型認知症に近い重度認知症との診断がおりる)
 80歳代半ば
  ・幻視・幻覚・暴言が顕著(現在は服薬調整で改善)
  ・レビー小体型認知症に近い重度認知症との診断
  ・子宮脱手術
  ・脳梗塞 以後、寝たきりの生活となる
  ・長時間の歯ぎしりによる歯の欠損
  ・自力での口の開閉が困難となる
服 用 薬 リーゼ錠・抑肝散・ビオフェルミン・酸化マグネシウム
コミュニケーション能力 若いころから視力が弱く、ほとんど見えていないが習慣で眼鏡をかけている。聴力はよく保たれているが、幻聴があり、小さな声や大きな低い声で話している。周囲で起きていることの把握が困難なために、大声の暴言が続き、他の利用者との会話は困難。
いつも長女と次女が一緒にいる気持ちで名前を呼ぶことが多い。子供時代に過ごしたふるさとと学生時代がテーマであれば、「学校へ行く」などごく簡単な会話は成立するが、側にいる人が誰かの判断ができない。
性格・気質 きまじめで寂しがり、誇り高い。
生きがい・趣味 静かに音楽を聞く。機嫌のよいときは他利用者の歌に合わせて手拍子する。
生 活 歴 地元の村長の長女として生まれ、木登りなどする活発な子供だった。雪道を1時間歩いて学校へ通い、和歌や英語が得意。20歳代前半でデザイナーの夫と結婚し、娘二人と四人暮らし。夫が子供のころに病弱だったため、元気に長生きできるようにと主婦として完璧を目指すあまり強迫症になる。精神療法を受けながら手作りの心がこもる家庭生活につとめていたが、次女も病弱で気苦労が絶えなかった。自分自身も60歳ごろよりパーキンソン症候群となり、夫も高齢となった。嫁いだ長女宅近くで夫・次女とともに暮らしていたが、やがて夫が死去、病弱であった次女も病死した。小刻み歩行や認知症による暮らしの困難が増えて一人暮らしは不可能となったため、80歳代前半でグループホームに入居となった。
人間関係 キーパーソンである長女はとても母親思い。入居当初から4~5年間は毎週木曜日に母親を連れ出してゆっくり自宅で一緒に過ごしていた。脳梗塞の後遺症もあり、寝たきりで外出は本人にとって負担が大きくなったため、それ以後は好物の食品をもって一緒にグループホームで過ごす日を実行している。
本人は若いころから医科大学に献体の意思を明確にした書類を提出している。本人の意思を尊重したい長女の考えはグループホーム側に伝えてあり、可能な限り最期までの日々をグループホームで過ごすと思われる。他入居者は本人の髪型と声の特徴から男性と思い込んでいることが多く、密接なコミュニケーションは少ない。大声で叫んだり、小さな声の独語を続けたりするので、ユニークな人と注目している。「ばか、ばか。」と言うのが口癖だが、ケアを受け入れるときは「ありがとう。」と繰り返すこともある。
本人の意向 自然な生命力を大切にする暮らしをしてきた。延命措置を望まず、最期は献体して医学の向上に役立てたいという決意を中年のころに明らかにしている。
事例の発生場所 グループホーム
前のページへ戻る
ワークシートへ