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事例ワークシート 事例29

A 課題の整理Ⅰ 援助者が感じている課題

① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。

気分を害す前や気分を害している時の関わり方。

ひもとき?
気分を悪くしている時のAさんの様子や周囲の状況で何か気付いたことはありませんか。
援助者の視点

笑顔がなく、また、前向きではない単調な返事をする様子がある。周囲の状況としては、その様子に気付いた時に、気にかける入居者がいる。

ひもとき?
気分を悪くしてしまった時の関わりで、スタッフが大切にしていることはどのようなことでしょうか。
援助者の視点

気分が悪い時には居室にいることがほとんどなので、少し時間を置き、その後居室へお邪魔し、何気ない話を切り出しながら、写真を見たり、まかない婦で働いていた時の、面白いエピソードなどを聞いたりし、活躍していた時の話を聞かせてもらいながら、他入居者の介入がないよう、落ち着いた会話をすることを大切にしている。

B 課題の整理 Ⅱ 援助者が想定する対応・方針

② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。

元気で明るい気持ちを維持することで、楽しく前向きに生活できるようになってほしい。

ひもとき?
元気で明るく、楽しく前向きな生活とは、具体的にどのようなイメージでしょうか。また、Aさんは、そのような状態についてどのように思うと考えますか。
援助者の視点

些細な失敗を気にせず、遠慮しないで積極的に食器洗いや食器拭き、調理参加などの家事を始め、植物の水遣りや金魚の餌やりなど、今まで生きがいを持ち、仕事や趣味で行ってきたことが継続されているイメージ。
Aさんの気持ちとしては、出来ることであれば何でも自分でしたいという思いがある。

③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。

現在継続している趣味を兼ねた生活リハビリを中心に、家族や知人の協力を得ながら、ホーム外でストレスを発散できる支援を行う。

ひもとき?
ホーム外でのストレスの発散とは、具体的にどのようなことですか。また、その中でどのようなことに重点をおいて関わりを持とうと思いますか。
援助者の視点

家族の役割としては、美容室、定期的な病院受診の付き添い、外食などの外出。知人の役割としては、海や山などドライブを中心とした外出。スタッフに対しては迷惑をかけているという気持ちが強く、一緒に外出することは難しい。家族や知人だと遠慮なく外出できる。その中でスタッフの出来ることは、家族や知人との連絡調整と外出時の身支度の支援に重点を置き、関わりを持つこと。

C 本人の状態や状況を事実に基づいて確認してみよう

④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。

・食器洗いや食器拭きをしている時に、他入居者が同じ作業をしていると「私がやるからいいよ、それはもう終わった」などと相手に対し攻撃的な言動があったり、作業を独り占めしたりするようなことがある。
・スタッフが他の入居者と関わっている様子を見て、嫉妬や孤独感を感じている。うつ的状態の時には「娘が全然来ない、家に帰りたい」時には「死んでもいいんだ」など表情が暗く悲観的である。
・ADLの低下を受け入れることができず、スタッフのサポートを拒否する場面が多々見られる。例えば入浴時には関節の可動域制限があり、一人での入浴に不自由さを感じてはいても、「大丈夫だから、向こうへ行っていて、終わったら呼ぶね。」と言う。

ひもとき?
ここに書いているAさんの言葉の向こう側には、どのような気持ちがあると思いますか。
援助者の視点

他者に任せていられない、自分の仕事に手出しをして欲しくない、作業の遅い人を見るといらだつ気持ちがある。
寂しい気持ちから、誰か側にいて欲しい。いて欲しいのは気を遣わない家族や知人。家に帰れば迷惑をかけることなく、誰かがいるという安心感。死んでもいいと思うのは、家に帰りたいけれど現実は帰ることが出来ないという諦め。
何でも自分でやってきたという気持ちが強いので、出来なくなってきている自分を受け入れられない。手伝ってもらうことで迷惑をかけるという気持ちがある。また出来ない自分の姿を見られたくない気持ち。

D 課題の背景や原因等の整理

⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。

思考展開シート

レビー小体型認知症と、性格に類似点がある。また身体的な不自由さや嫉妬すること、今まで出来ていたことが出来なくなってきていることに対してのイライラ感から、孤独感やうつ的な状態となっていく。

ひもとき?
レビー小体型認知症と、性格に類似点がある、ということとは、どのようなことなのでしょうか。
援助者の視点

レビー小体型認知症の症状として、気分や態度の変動が大きく、一見全く穏やかな状態から無気力状態、興奮、錯乱といった症状を一日の中で繰り返すというところで、一部ではあるが、元々うつ的なところでの無気力状態、短気を起こすと強い興奮が起きることでの類似点。

E 事例に書いた課題を本人の視点に置き換えて考えてみよう

ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。

⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?

自分の思いとは違い、行きたかった学校には行かせてもらえなかった。字は書けないし読めない、簡単な計算もできない、そういった思いが根本にある。現在ではADLの低下も肌で感じつつも、誰にも負けたくない、誰の手も借りたくない、自分ひとりでも出来るんだという強い思いが常にある。集団的扱いではなく、さりげないアプローチによって、Aさんの力を発揮できる場面作りが必要不可欠。

ひもとき?
集団的扱いではなく、さりげないアプローチを行う場合、スタッフ間でどのような申し合わせが大切になると思いますか。
援助者の視点

Aさんにだけ伝わるよう、声のかけ方や大きさに注意する。また声以外にも、食器洗いや調理、植物の水遣りなど動きで働きかけながら、個別にアプローチすることが大切。

F 課題解決に向けた 新たなアイディア

⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。

・他入居者が介入しない、自分だけの活躍できる場面作り。
・家族や親友と関われる時間を増やす。
・失敗体験ではなく成功体験に結びつくような支援。

ひもとき?
自分だけの活躍できる場面作りや成功体験に結びつくような支援を実現するにあたって、まずどのようなことから始めようと考えていますか。また、他のスタッフへは、この取り組みをどのように伝えようと考えていますか。
援助者の視点

Aさんの居室で、趣味である観葉植物や花を用意し、水遣りや手入れを毎日の日課となるよう支援する。日課とすることで、段階的に植物に必要な肥料や新たな土、新たな植物など買い物に出かけられるような支援につなげ、再び植物を育てる楽しみを思い出してもらい、自分で手がけたものだからこそ、いろいろな人に自分で育てた植物を見てもらいたいという気持ちを持ってもらいたい。
他のスタッフに対しては、落ち着いて趣味活動が楽しく継続できるよう自室で植物を育てながら、段階的に外出支援につなげ、内にこもった気持ちを花のように咲かせてもらえたらという気持ちで取り組みたいと伝えたい。

ひもとき?
ワークシートや思考展開シートの記入前と記入後とでは、新たに気付いたことや変化したことなどがありましたか。具体的にお聴かせ下さい。
援助者の視点

どの項目もそうだが、自分の出した課題が質問されることによって、現時点でのケア方法の確認や、見直しなど振り返ることのできる機会となった。特にワークシートFの項目では、今まで出来ていそうで出来ていなかったこと、様々な課題を整理することで、一つの方法が新たに導き出されたことで、本人にとってより良いケアを実践できる可能性が見えた。

ひもときアドバイス

 レビー小体型認知症と診断をされた方への関わりを病気の症状と本人の想いの両面から考えて取り組んだ事例だと思います。元々の性格と症状との区別を、事柄が起こるたびに考え、変動があるということも受け入れながら、その時に関われることを探し出し、実現に向けて無理のないように計画をしていました。
 また、質問をさせてもらうことで、具体的にどのように動くのか?スタッフ間での共有化はどう行うのか?など、抽象的だった事柄がとても具体的に展開することができたように思いました。他のスタッフへの説明もどうしてこの関わりなのか?という点をしっかりおさえることで、納得できた形でのチームケアの確立に繋がっていくと思います。
 今後も今回のように、本人に聴きながら、より具体的な表現で話し合いや計画を行っていくことと、病状の経過も把握しながら、レビー小体型認知症の症状にも対応した関わりを続けて欲しいと思います。

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