① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。
独自の生活ペースを守って施設生活を送り、気分の良い時には軽作業を快く了承して行ってくれたり、多弁でユーモアな一面を見せたりすることもあるが、何かのきっかけで不満が爆発し大声で怒鳴る。
テーブルを「バン!」と大きな音を立てて叩くなど、職員がAさんの話を受け入れた上で切り返していく方法も通用せず、他利用者とトラブルになる。不満が爆発した時は何を言っているのか分からず、援助者にとって理解や対応が困難である。
不満を誰かに伝えたいが、話しても相手に伝わらない時。
本人のペースや生活習慣が乱された時。
② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。
・穏やかな施設生活を送ってもらいたい。
・不満があるときは職員に落ち着いて話してもらいたい。
・周囲の利用者とうまくコミュニケーションを取ってもらいたい。
周囲が静かで穏やかな騒がしくない環境の時。
③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。
・日課はその日の本人の気分にまかせ、訴えがあれば援助する。
・家族交流の機会を増やす。(家族が遠隔地にいるため、面会不可の場合は電話で話してもらう)
・精神安定薬処方の継続。
今は「○月○日の○曜日である」ということを知りたがるので、伝える。
入浴や行事の予定を事前に伝える。
④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。
・寝付く前や起床時に、「ベッドに電流が流れている、目まいがする、何とかしてくれ!!」と興奮気味に話す。
・施設の食事について、「うまい」「まずい」と味付けやお粥の炊き方に文句を言う。
・「ここの病院は役立たずだ。今月いっぱいで退院する。」
・「私の服がない。あんたが盗った!!」と興奮して話す。
・起床時に、「何だか目まいがするんだ~。足が痛いんだ~。」と気分・意欲の低下が見られる。
・気に入らないと、テーブルを「バン!!」と思いっきり叩く。
朝起きた時の体調や気分によって、良い日を過ごせるか、また意欲のわかない日になるか不安に思っている。
調理関係の仕事に就いていたので、自分の口にあった物が食べたい。
自分の持ち物が見当たらず心配。
⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。
・一人で苦労して何とか生きてきたが、人生の最期で病院(施設)に入れられているため精神的苦痛があると思われる。
・身内が近くにいない、気の合う仲間がいないため孤独感を感じている。
・自分の知らないうちに自分の財産を処分されたと思い込んでおり、不満が強い。
・記憶障害のため、物がなくなると他人が盗んだと思う。
軽作業を依頼されて、誰かの役に立てていると思う時。
娘、息子が面会に来た時、また来ることがわかった時。
ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。
⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?
・現在の生活に突如不満がこみ上げてくる。
・もっと家族とコミュニケーションを取りたい、話を聞いてもらいたい。
・起床時に気分がすぐれない時は、自分の心配をしてもらいたい。
・仕事をして人に褒めてもらいたい。
集団生活の中で役割を持てることにより、生活の意欲が向上する。また不安が減少する。。
⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。
・家族面会時に外出して交流を図ってもらう。気分転換をする。
・気分の低下が著しいときは、ケアワーカーではなく看護師がバイタルチェックを行い、体調面のアドバイスをする。
・タオルたたみだけではなく、裁縫なども行ってもらう。
・朝は調子が悪いので、起床の声掛けや排泄時にカーテンを突然乱暴に開けるのではなく、丁寧な声掛けを心掛ける。
・本人が満足するまで話を聴く。
本人と良好にコミュニケーションをとる。
本人のその日その日の気分や体調面を中心に情報交換する。
Aさんの生活歴を知ることにより、Aさんへの理解が深まり、それを基に対応した結果、興奮や不安が減少し、穏やかに過ごせるようになってきた。
「私の不安・不満をわかってほしい」という本人の気持ちを理解しようと、症状に対しての関わり方を考えながら取り組んでいただきました。例えば、記憶障害や見当識障害などに対して時間や場所をしっかりと伝えることで、自分で認識できるきっかけ作りをしたり、できる力を活かしながら、自分での持ち物管理を支え、自分で決めていただくという大切な働きかけを行ったりもしていました。
また、他職種との連携も考え、身体面で不調の場合は、看護職との情報交換や役割分担をしながら、チームで支えるということをベースに実践していたようにも思います。
今後は更に、Aさんへの過去や現在など多方向からの理解を深めながら、現在は特に影響が考えられないといった疾病や薬等の影響にもそのつど目を向け、具体的な関わりの実践を積み重ねることで不安や不満を理解し、その人の苦しみが軽減されるようサポートしていただければと思います。