① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。
夜間の失禁が続きパッドを使用し始めたが、パッドを使用していることに対して依存感が出現し、トイレでの排泄ができなくなってしまった。
入院前は尿意がありました。退院後は、ある時・ない時と状態によって異なります。
② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。
トイレで排泄することを思い出して、トイレでの排泄が習慣になって欲しい。
判断能力の低下・理解力の低下が見られます。比較的記憶は保たれていると感じます。
現在は状態が良くなり、トイレでの排泄ができるようになりました。
当初は、トイレで排泄することを思い出して欲しいスタッフの気持ちが強く、Aさんの思いや状況をきちんと理解することができていなかったと思います。
③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。
パッドを外してトイレに誘導する。
Aさんが、「パッドをしているから、パッドにおしっこをすればいいんです。」と言ったことがありました。「本当は、パッドを外してトイレで排泄をしたいのではないか?思うように身体が動かなければ、スタッフが支援を考えればよいのではないか?」と考えたからです。
④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。
・「パッドをしているからパッドにすればいいんです。」
・トイレに入ってもパッドのみ自分で交換し、便座に座らない。
・ズボンや下着を常に気にしている様子が見られる。
・「私がトイレを使うと汚れてしまうから。」
トイレに間に合わず、失禁してしまうのでは?という不安。また動作手順の混乱が見られ、便座に座る動作がうまくできない。思うようにできない自分の身体を考え、「パッドの方が、迷惑がかからない。スタッフに介助してもらわなくてもいい。」と考えていたのかもしれません。
当時のことを現在は、「トイレに行けないほど、身体が動かなかった。スタッフに迷惑をかけたくなかった。」と話しています。
⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。
食事や水分の摂取が減少し、脱水傾向による発熱が見られ、倦怠感が強く出ていた。また、精神的に不安定な状態であり、意欲低下・体力の低下が見られる。病院での入院時におむつを使用していたため、尿意が少しなくなってしまったことが原因。退院後も、パッドにて様子を見ていたが、Aさんに確認せず、介護者側が勝手に「パッドの方が良い」と思い込んでケアしていたことが、原因と考えられる。
ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。
⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?
存在していることで周りに迷惑をかけているのではないかと心配になっている。
とてもまじめで優しく、温厚な性格の方です。いつも家族のことを心配していました。自分が自分でなくなっていく状態を、心で強く感じていたのではないかと思います。何もできなくなっていくことを、周りに迷惑をかけることと思っていました。また、貧困妄想があり、「お金がない。お金を支払っていないのに、ここに住まわせてもらっている。」と思い込んでいた場面もあり、「ご迷惑をかけます。」とよく話していました。
⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。
・パッドを外してトイレでの排泄を促す。
・水分補給を充分に提供する。
・トイレを使用することのメリットを本人に伝えていく。
この事例は、治療のために服用していた薬剤の影響で、自分自身の身体でありながら自分の意思で行動するということが抑制された状態にあったのではないかと思われます。
Aさんはこうした身体の状態に苦しみながら、今までとは違う自分に強い喪失感を抱き、「トイレで排泄することの価値観がなくなった。」と表現したのではないでしょうか。そして、Aさんはこれまでの人生を、「人には迷惑をかけない」という価値観を持って生きてきた方なので、人に迷惑をかけてまでトイレに行くのなら、「パッドに排泄しよう」と自己決定したのだと思います。
一方職員は、上記のようなAさんの思いを汲み取ることができずに、「トイレで排泄することを助けたい」「人としての尊厳を守りたい」という思いで関わっていたと思います。
こうした両者の思いのズレや薬剤の影響が、BPSDを出現させていた事例ではないだろうかと考えます。