① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。
入居時より常に早足でユニット内外を歩き回る。
「家に帰る。」と言って出口を探したり、専門棟外へ出て行ったりしてしまう。職員が少ない朝や夕方、食事時間は対応が難しい時がある。動きが早く行動が把握出来ないこともある。
ひょっとして黙って出て行ってしまうのではないか?
付き添う努力はしていますが、職員が多いときであっても、完全に対応することは難しいです。
② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。
入居してまだ1ヵ月にならず、施設生活にも慣れていないこともあるが、自分の落ち着く場所や楽しみが持てる場所で穏やかに過ごして欲しい。
ユニット内に畳のスペースを設けており、そこで歌の好きな入居者数名と歌って過ごすこともあります。。
③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。
入居して2週間、24時間行動確認表を使い、行動をチェックした。その結果夜間は良眠しているが、日中は歩き回ることが多く、「帰りたい。」という訴えもあるが、それだけではなく何かを探したりする。住み慣れた家ではないという環境になじめず、落ち着かないのではと考えた。
心理的な状態の要因が大きいと思われます。
眠くなるまで夜勤の職員と過ごす時間を持ち、Aさんが眠くなってから居室へ誘導し、入床するようにしているためです。睡眠薬の服用はしていません。
軽作業を一緒に手伝ってもらったり、散歩をしたりする。
おしぼりやタオルたたみ、職員と一緒に厨房へお茶を取りに行くなど、簡単な仕事の手伝いを頼むとAさんも喜んで引き受けてくれます。生活歴や職業歴との直接的な繋がりはないと思います。
本人の訴えを聞く。
場所は理解出来ておりませんが、自宅ではないことはわかっています。
④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。
「家に帰るんだ。」「どっちへ行ったらいい?」
子供の名前は出ませんが、「お兄ちゃん」や「父さん」という発言があるので、子供たちを育てていたときの家だと思います。
タオルケットを頭からスッポリとかぶり、廊下を早足で歩く。
姿を隠して歩いていると本人は思っていると思います。
・棟外へ行こうとする職員の後を追ったりする。
・職員と一緒に座り、話しかけると笑顔で返答するが、そばに人がいなくなると、また早足で歩き出し、棟外へ出て行こうとする。
・行動を止めようとすると怒り出し、暴言をはくことも有り。
⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。
夫との二人暮らし生活から施設生活になり環境が変わったこと。
特にありません。
働き者だったが何もすることがない。
話を聞く機会はありますが、答えが曖昧で解らないことが多いです。話し掛けると笑顔を見せます。
ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。
⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?
一人になると不安になる。誰かに声を掛けて欲しい。
夜間は眠くなるまで職員と一緒に過ごしています。眠いと訴えがあると自室へ誘導し、入床します。
日中の傾眠は無く、活発に動いているため疲れもあり、良眠に繋がっていると思います。
わからないことは自分にわかるように優しく教えて欲しい。
夫や子供たちの面会時には外へ散歩に出掛けます。その際、会話もしていると思います。職員は声掛けに注意していて、Aさんが、怒ったり興奮していたりする時にきつい口調で話し掛けると余計に怒るので、優しく話し掛けるように対応し、Aさんが落ち着くようにしています。
⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。
好きな歌を一緒に歌う時間を作る。
楽器演奏は家族からの情報で、Aさんに聞いても「わからない。」と言います。歌は好きで日常的に口ずさんでいたようです。定期的に時間を設けることは、現状では難しいと思います。
・落ち着かなく歩いている時は、話を聞き、安心できるよう声掛けをする。
・軽作業等できることを手伝ってもらう。
職員配置はしていますが、その日によって時間があったり、無かったりとまちまちです。。
本事例の提供者は、行動確認表を用いて、客観的な本人の行動把握と帰宅願望の背景を捉えようと努めています。その結果、本人の現状への認識の困難さや不安などの心理的な要因が強いことが理解され、気分が落ち着くように、また楽しみが持てる場所を提供するなど環境面への配慮を行い、職員が寄り添う形で具体的な支援に入っています。その結果、夜間の睡眠も得て、比較的安定した施設での生活が始まっています。
「帰りたい」という背景にある"何もすることが無い""役割が無い
"といった活動(アクティビティー)にも視点をあて、おしぼりやタオルたたみ、音楽、お茶を職員と一緒に取りに行くといった活動を取り入れ、本人の心理的な安定を図っている事例といえます。思考展開シートを見ると、こうした職員との関わりや日々の活動による行動変容が、本人を中心としたダイナミックな全体像として把握することができました。
今後の課題としては、現在の支援が職員という個人レベルでとどまっており、職員が他の仕事で忙しかったり、時間の余裕が無かったりする時には十分な対応ができないことが懸念されます。本人の活動能力を把握し、職員全員が支援のプランを共有し、施設全体のケアシステムの中に組み込まれることが、次の段階で求められてくる事例ではないかと思いました。