Aさんは施設で生活しており、本人の懸命な努力により、入居当時は車椅子で移動していたが、現在では歩行器で自由に移動できるようになるなどADLの向上が見られ、声掛け程度で生活できている。在宅生活に戻りたいと思っており、「ここを辞めさせてもらいたい」と不満を訴える。また、周囲の利用者と比較して本人の認知症の程度が軽度なためか、食事の様子を見ては「自分で食べなさい!!」と不満で、時折他の利用者とのトラブル(口げんか)もある。自分のことは自分でしたいという性格の持ち主で、衣類や持ち物の管理等は自分で行っているが、記憶障害により衣類については見当たらないと、「お前が盗った」と職員を怒鳴りつける。夜間は良眠しているものの、朝は気分の低下が見られ気分の落ち込みにより起床できず、朝食時間をずらす、または中止している。
本人は在宅復帰のために生活面で自立できるよう努力し、ADLも向上したが、帰る家は処分されており現実には不可能である。周囲の利用者や職員に対して、不満や妄想のような発言をし八つ当たりする。一度不満が爆発すると職員も抑えることができない。気分の良し悪しが激しい。
施設生活での本人のストレス
年 齢 | 80歳代 |
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性 別 | 女性 |
職 歴 | 奉公に出てから、様々な職業に就いた |
家族構成 | 入居前は一人暮らし |
認知機能 | MMSE 4点 |
要介護状態区分 | 要介護3 |
認知症高齢者の日常生活自立度 | Ⅲa |
既 往 歴 | 脳内出血、脳梗塞、糖尿病、陳旧性結核、左膝骨折、白内障、慢性結膜炎 |
現 病 | 認知症 |
服 用 薬 | センノサイド・アローゼン・オメプロトン・フロセミド・ニフェジピン・チアプリム |
コミュニケーション能力 | 自分の要求を職員に伝えることができる。昔の記憶と事実の混同からくる発言をし、興奮する。気分の良いときは多弁でユーモアのある一面も見せる。 |
性格・気質 | 自分のことは自分でしたい。気性が激しい。こらえ性がなく不満を爆発させる。 |
A D L | 食事は自立、排泄は日中自立しているが、夜間はリハビリパンツとパッドを使用している。移動は歩行器をフリーで使用している。着脱は自立、入浴・洗髪は介助が必要。 |
障害老人自立度 | A1 |
生きがい・趣味 | 施設生活では軽作業(タオルたたみ・味噌汁の配膳)をして、人の役に立つことを生きがいとしている。 |
生 活 歴 | 昭和20年頃食品工場で働いていた夫と結婚、三人の子供をもうける。昭和40年頃夫と離婚後子供は夫が引き取る。その後飲食店等で働いていた。昭和40年代後半病気のため生活保護を受給するが、翌年には廃止となり、炊事場等で働く。昭和50年頃、脳内出血で入院し再び生活保護を受給するが翌年に廃止、その後働いたが数年後、賃金未払いにより生活が困窮。病弱なので生活保護を受ける。平成10年代前半脳梗塞で入院、この頃より車椅子生活になったと思われ、市内の養護老人ホームに入居するが、身体的に生活が困難となったため介護老人保健施設に入居、現在に至る。 |
人間関係 | 娘・息子の面会がある。施設では他の利用者の世話を焼いて口出しする。デイケアに友人あり、時折面会に来て会話している。 |
本人の意向 | できれば娘や息子が住んでいる近隣にある施設で暮らしたい |
事例の発生場所 | 介護老人保健施設 |