① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。
このまま入浴・洗髪をしない日が続いてしまうのではないか。
衛生面で心配です。
入浴や洗髪をすることで身体の状況を把握していることも多いため、その機会が少なくなります。
② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。
入浴・洗髪が出来て欲しい。
こざっぱりとしていて欲しいです。
③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。
・声掛けの工夫。
・風呂場が新しくなり、便利になっていることを何回も説明する。
優しいトーンの声掛け。
テレビを見ていることが多いため、コマーシャルタイムや終了時の頃合いを見ての声掛け。
以前は階段で地下に行っていましたが(エレベーターもあり)、新しい風呂は同じ階に出来ました。
地下の浴槽は大浴槽であったが、新しい風呂は個人浴槽で、職員と1対1で対応しています。
他の利用者にとって快適であっても、Aさんにとっては快適でないのかもしれません。
④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。
・お風呂に入らなくても死なないよ。
・俺はいいから、他の人に声かけてくれ。
うるさそうに、表情は穏やかに見えるが、足早に立ち去って行きます。
何度も声掛けすると、声を荒らげて「いいんだってば!」と怒ってきます。
⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。
・認知症が進み、新しいことが認識できなくなってきているのではないか。
・新しい浴室の雰囲気が、初めてのことで受け入れられないのかもしれない。
・新しい浴室は、風呂場に見えないのかもしれない。
・自由に暮らしてきているので、指摘されたり、指示されたりすることが嫌なのではないか。
・衣類を脱いだり、着たりすることが面倒なのではないか。
・入浴時、洗うことは出来ていても、まんべんなく洗う、髭を綺麗に剃るといったことができなくなってきていて、介護者に指摘されることが嫌なのではないか。
・これまでの生活歴から、個人浴槽の形は受け入れられないのかもしれない。
・入浴をする習慣が少なかった。
大浴場の時は、他の利用者のことを意識していたと思いますが、個人浴槽になり、もったいないという遠慮があるのでしょうか。
結婚歴がないので、女性スタッフの関わりを受け入れられないのかもしれません。
過剰な関わりというか、スタッフとの距離が近すぎるように思います。近い距離はあまり好まないのかもしれません。
先日、入浴とは異なりますが、こんなことがありました。
日曜の午後でティータイムがありました。昼食後、一旦居室に戻っていますが、食堂前で夕食のために早くから椅子に腰掛けて待っていました。スタッフが「Aさん。まだ早いですよ。コーヒーをどうぞ、ちょうどお菓子もあります。」と話しかけている場面で、「要らないよ!構わないでくれ!」と言っていました。テーブルが無かったので近くにあった台を勧め、「いかがですか。どうぞ。」と一緒に勧めたら、もの凄い剣幕で「いいんだってば!構うな!」と怒鳴られました。
回数は変更ありませんが、入浴時間については影響があると思います。
回数は変更ありませんが、入浴時間については影響があると思います。
以前は、「Aさん!お風呂です。」とスタッフが声掛けすると、一人で階段を下り浴室まで行っていました。新しい風呂は同じ階にありますので、入浴そのものはゆっくりですが、浴室までの距離は近く、同行されていると感じているのでしょうか。
ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。
⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?
・新しい浴室の雰囲気が、初めてのことで受け入れられないのかもしれない。
・新しい浴室は、風呂場に見えないのかもしれない。
・入浴時、洗うことは出来ていても、まんべんなく洗う、髭を綺麗に剃るといったことが、できなくなってきていて、介護者に指摘されることが嫌なのではないか。
・一人で入るのはもったいないよ。
・女の人と1対1は、恥ずかしいよ。
「もったいない」とのことには、両方の意味合いがあると思います。
これまでも、お茶を勧めた時などでも、「いいよ!飲みたい時は、水道の蛇口をひねって水を飲むから。」等と言い、スタッフの関わりをあまり好まないように思います。
⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。
・声掛けの工夫。
・風呂場が新しくなり、便利になっていることを何回も説明する。
・日頃からコミュニケーションをとっていくようにする。
・月一回は理髪をして身だしなみを整え、出来ているところを大事にしていく。
同性介助を試みる。
Aさんのペースを良く知っていくことだと考えます。
最近、ちょっとしたことでも怒りっぽくなっているAさんです。この間、夕食の時間に来ないことがありましたが、怒ってその日は、「要らない!」と食べないことがありました。
出来ている生活リズムが崩れないよう、タイミング良い声掛けが必要だと考えます。
Aさんが怒りっぽい時は、関わりを抑えて見守っていきたいと考えています。
Aさん担当のスタッフを中心に、Aさんの出来ているところを大事にして、穏やかな日々が過ごせるよう、少しでも入浴ができるよう協力し合っていきたいと考えます。
センター方式D-3シート(焦点情報(生活リズム・パターンシート))を使用して、Aさんの生活リズムの変化を見ていきたいと考えます。
施設ケアにおいて、より個別ケアを推進するため、あるいはより利便性を高めるために浴室改修工事を行いましたが、事業者側の期待に反し、個人浴槽での入浴を拒否するようになった事例です。期待に反し、拒否が見られるようになっただけに「何故?」「どうして?」との思いも湧き、より困難さも増したのではないでしょうか?
しかし、ひもときシート、思考展開シートを活用して本人の立場で分析・理解していく過程で、スタッフの関わり方、あるいはスタッフが取る距離感が影響を与えている可能性を見出だしました。記入当初は気付いていなかったAさんのお風呂を嫌がる気持ち(女性の介助への抵抗感の可能性等)にもやり取りを行う過程で気付くことができました。
私たちは普段「寄り添ったケア」という表現もよくしますが、実践として具体的にどのようなケアであるのか、物理的な環境だけでなく人的環境の在り方として、適度な距離感、適度な関わりとは何かが再考される事例だと思います。
事例提供者は今後、Aさんに限らず、困難さを感じる事例に対して"ひもときシート"活用の意向もあり、またその取り組み方としてケアマネジャーや看護職員、介護職員とチームで活用していくことも考えています。介護、生活支援ではチームケアが大切と言われますが、このひもときシートを、カンファレンス等で活用していくことも一手段だと考えます。