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事例ワークシート 事例35

A 課題の整理Ⅰ 援助者が感じている課題

① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。

このまま入浴・洗髪をしない日が続いてしまうのではないか。

ひもとき?
入浴や洗髪をしないことによる影響とは、どのようなことだとイメージしていますか?
援助者の視点

衛生面で心配です。
入浴や洗髪をすることで身体の状況を把握していることも多いため、その機会が少なくなります。

B 課題の整理 Ⅱ 援助者が想定する対応・方針

② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。

入浴・洗髪が出来て欲しい。

ひもとき?
入浴や洗髪が行われた結果、Aさんがどのような姿、状態になっているとイメージしていますか?
援助者の視点

こざっぱりとしていて欲しいです。

③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。

・声掛けの工夫。
・風呂場が新しくなり、便利になっていることを何回も説明する。

ひもとき?
声掛けの工夫とは、具体的にどのようなものですか?
援助者の視点

優しいトーンの声掛け。
テレビを見ていることが多いため、コマーシャルタイムや終了時の頃合いを見ての声掛け。

ひもとき?
お風呂が新しくなったことによる便利さとは、具体的にどのような便利さですか?
援助者の視点

以前は階段で地下に行っていましたが(エレベーターもあり)、新しい風呂は同じ階に出来ました。
地下の浴槽は大浴槽であったが、新しい風呂は個人浴槽で、職員と1対1で対応しています。
他の利用者にとって快適であっても、Aさんにとっては快適でないのかもしれません。

C 本人の状態や状況を事実に基づいて確認してみよう

④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。

・お風呂に入らなくても死なないよ。
・俺はいいから、他の人に声かけてくれ。

ひもとき?
上記の発言の際に、Aさんはどのような表情をしていますか?また、しぐさや行動はいかがですか?
援助者の視点

うるさそうに、表情は穏やかに見えるが、足早に立ち去って行きます。
何度も声掛けすると、声を荒らげて「いいんだってば!」と怒ってきます。

D 課題の背景や原因等の整理

⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。

思考展開シート

認知症が進み、新しいことが認識できなくなってきているのではないか。
・新しい浴室の雰囲気が、初めてのことで受け入れられないのかもしれない。
・新しい浴室は、風呂場に見えないのかもしれない。
・自由に暮らしてきているので、指摘されたり、指示されたりすることが嫌なのではないか。
・衣類を脱いだり、着たりすることが面倒なのではないか。
・入浴時、洗うことは出来ていても、まんべんなく洗う、髭を綺麗に剃るといったことができなくなってきていて、介護者に指摘されることが嫌なのではないか。
・これまでの生活歴から、個人浴槽の形は受け入れられないのかもしれない。
・入浴をする習慣が少なかった。

ひもとき?
⑤で、Aさんが、新しいお風呂に入るのを嫌がるようになった課題や原因などを整理して挙げていただきましたが、これ以外に、今までのやり取りの中で、何か新たに気付いたことはありましたか。
援助者の視点

大浴場の時は、他の利用者のことを意識していたと思いますが、個人浴槽になり、もったいないという遠慮があるのでしょうか。
結婚歴がないので、女性スタッフの関わりを受け入れられないのかもしれません。

ひもとき?
思考展開シート(5)(8)から、これまでの大浴場での入浴、介助の在り方と比較して質問をします。女性スタッフ介助という要因以外に、マンツーマン介助がAさんにとって、「常に見られている」といった過剰な関わりになっていることはありませんか?
援助者の視点

過剰な関わりというか、スタッフとの距離が近すぎるように思います。近い距離はあまり好まないのかもしれません。
先日、入浴とは異なりますが、こんなことがありました。
日曜の午後でティータイムがありました。昼食後、一旦居室に戻っていますが、食堂前で夕食のために早くから椅子に腰掛けて待っていました。スタッフが「Aさん。まだ早いですよ。コーヒーをどうぞ、ちょうどお菓子もあります。」と話しかけている場面で、「要らないよ!構わないでくれ!」と言っていました。テーブルが無かったので近くにあった台を勧め、「いかがですか。どうぞ。」と一緒に勧めたら、もの凄い剣幕で「いいんだってば!構うな!」と怒鳴られました。

ひもとき?
思考展開シート(3)との関わりから聞きます。入浴の回数や入浴時間の変更はありましたか?大浴場では集団での入浴だったので誘う時間の幅にもゆとりがあったが、個人浴槽では時間の幅にゆとりがなくなった等はありますか。
援助者の視点

回数は変更ありませんが、入浴時間については影響があると思います。
回数は変更ありませんが、入浴時間については影響があると思います。
以前は、「Aさん!お風呂です。」とスタッフが声掛けすると、一人で階段を下り浴室まで行っていました。新しい風呂は同じ階にありますので、入浴そのものはゆっくりですが、浴室までの距離は近く、同行されていると感じているのでしょうか。

E 事例に書いた課題を本人の視点に置き換えて考えてみよう

ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。

⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?

・新しい浴室の雰囲気が、初めてのことで受け入れられないのかもしれない。
・新しい浴室は、風呂場に見えないのかもしれない。
・入浴時、洗うことは出来ていても、まんべんなく洗う、髭を綺麗に剃るといったことが、できなくなってきていて、介護者に指摘されることが嫌なのではないか。

ひもとき?
⑥では、Aさんの立場にたって、Aさんの気持ちを考えて3つの想いを挙げてくれていますが、Dで2次的にやりとりをしながら気付いたAさんの新たな想いはありましたか。
援助者の視点

・一人で入るのはもったいないよ。
・女の人と1対1は、恥ずかしいよ。

ひもとき?
「もったいない」とは、どんな意味合いでもったいないと思っていると捉えましたか?
湯がもったいない?個別の関わりがもったいない?
援助者の視点

「もったいない」とのことには、両方の意味合いがあると思います。
これまでも、お茶を勧めた時などでも、「いいよ!飲みたい時は、水道の蛇口をひねって水を飲むから。」等と言い、スタッフの関わりをあまり好まないように思います。

F 課題解決に向けた 新たなアイディア

⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。

・声掛けの工夫。
・風呂場が新しくなり、便利になっていることを何回も説明する。
・日頃からコミュニケーションをとっていくようにする。
・月一回は理髪をして身だしなみを整え、出来ているところを大事にしていく。

ひもとき?
⑦で、新しい取り組みを挙げてくれましたが、DやEでやり取りを通じながら女性の介助に対するAさんの抵抗感に目を向けられたことなどから何か具体的な取り組みが考えられますか。
援助者の視点

同性介助を試みる。

ひもとき?
スタッフの取る距離が近すぎるとのことですが、Aさんにとって、快と感じられる距離感、いわゆる、過剰でもない過少でもない関わりとは、どのようなものだと考えられますか?入浴場面のみに捉われずにお考えください。
援助者の視点

Aさんのペースを良く知っていくことだと考えます。
最近、ちょっとしたことでも怒りっぽくなっているAさんです。この間、夕食の時間に来ないことがありましたが、怒ってその日は、「要らない!」と食べないことがありました。

ひもとき?
Aさんのペースを大切にすることも大切ですね。更に深化させるとなると、このことから距離感をどのように取っていこうと考えていますか?
援助者の視点

出来ている生活リズムが崩れないよう、タイミング良い声掛けが必要だと考えます。
Aさんが怒りっぽい時は、関わりを抑えて見守っていきたいと考えています。

ひもとき?
今回、新たな気付きがいくつか得られたようですが、この気付きをどのようにスタッフと共有していこうと考えていますか?
援助者の視点

Aさん担当のスタッフを中心に、Aさんの出来ているところを大事にして、穏やかな日々が過ごせるよう、少しでも入浴ができるよう協力し合っていきたいと考えます。

ひもとき?
チームケアですので、協力し合うことはとても大切だと思います。さて、具体的にはどのような形で進めていこうと考えていますか?
援助者の視点

センター方式D-3シート(焦点情報(生活リズム・パターンシート))を使用して、Aさんの生活リズムの変化を見ていきたいと考えます。

ひもときアドバイス

 施設ケアにおいて、より個別ケアを推進するため、あるいはより利便性を高めるために浴室改修工事を行いましたが、事業者側の期待に反し、個人浴槽での入浴を拒否するようになった事例です。期待に反し、拒否が見られるようになっただけに「何故?」「どうして?」との思いも湧き、より困難さも増したのではないでしょうか?
 しかし、ひもときシート、思考展開シートを活用して本人の立場で分析・理解していく過程で、スタッフの関わり方、あるいはスタッフが取る距離感が影響を与えている可能性を見出だしました。記入当初は気付いていなかったAさんのお風呂を嫌がる気持ち(女性の介助への抵抗感の可能性等)にもやり取りを行う過程で気付くことができました。
 私たちは普段「寄り添ったケア」という表現もよくしますが、実践として具体的にどのようなケアであるのか、物理的な環境だけでなく人的環境の在り方として、適度な距離感、適度な関わりとは何かが再考される事例だと思います。
 事例提供者は今後、Aさんに限らず、困難さを感じる事例に対して"ひもときシート"活用の意向もあり、またその取り組み方としてケアマネジャーや看護職員、介護職員とチームで活用していくことも考えています。介護、生活支援ではチームケアが大切と言われますが、このひもときシートを、カンファレンス等で活用していくことも一手段だと考えます。

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