① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。
・Aさんに説明するにあたり、声掛けの仕方や方法がAさんにとっては納得できずに、ストレスを感じてしまい、精神的に落ち込んでいるのではないか。
・訴えが頻繁にあることで、親身に話を聞くことができていないのではないか。
・Aさんにとって、どのように接することが体調面での不安の軽減に至るのか。
② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。
・説明をした際に、不満を持つことなく理解をしてもらえたらと思う。
・心身共に安心した暮らしを送ってもらえたらと思う。
③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。
・各職種間での話し合いと、専門職種からの説明が必要。その範囲で、できることをAさんに理解してもらうこと。
・Aさんがストレスだと感じることなく、納得できるような声掛けの実施。
・Aさんの気持ちになってケアを提供していくこと。。
できるだけ受容的に会話を持つことです。
例:Aさん「何だか具合悪いんだ。」スタッフ「そうですか。どこか病院へ行って診察してもらいますか?それとも私たちで何かできることはありますか。あれば遠慮なく言ってくださいね。」などの声掛けをすることで納得してもらえることが多くなりました。安心感を持てているのではないかと思います。
④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。
「なんだかきょうは手が痛いんだ。昔はこんなんじゃなかったのに。」しばらく状態を観察すると、手の痛みは治まり、「肩が痛くなってきたんだ。」「めまいがしてきた。」「体が寒い。」などの訴えがある。訴え時にはすぐに薬の処方を希望する。薬が必要ではない場合も、理解できないことがあり、精神的に落ち込むことがある。
手をマッサージしたり、安静を促したりしました。
「ベッドに横になっては。」と提案しました。気持ちとしては、Aさんが少しでも気持ちが落ち着き、楽になってもらえればと思いました。
頓服薬にて1日1回の処方であっても、何回も薬を欲しがることがありました。偽薬は使っていません。
偽薬については検討し、最近になって処方されました。Aさんはそれを内服することで、「良くなってきた。」などと話していました。
Aさんは、「わしの体はわしが一番分かる。あんたたちには分からないんだ。」と話すことが多いです。
説明の仕方が良くなかった点も考えられます。看護師らとも相談し、通院なども実施しました。
⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。
Aさんとの関わりについて、本当に親身になって対応しているのか、Aさんの気持ちになって会話をしているのか、といった心の関わりが薄いところが原因ではないかと考えられる。もっとたくさんの関わりを持つことが原因究明の鍵になるのではないか。
親身になって話すことで、本当にAさんが思っていることをわずかながらでも聞き取ることができたり、会話を主とした関わりの中で、話し方次第で笑顔も見られたりすることがあったからです。
入居前であったため詳細は分かりませんが、Aさんの言葉から察するに、患ったことで自分の体が悪くなってきたと話していました。
ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。
⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?
スタッフが言っていることは分かるが、自分の体は自分が一番理解している。家にいた時はもっと自由に自分のことを考え、行動に移せたが、施設に入り制限があることに納得がいかない。
確かにそうかもしれません。配慮が足りなかった部分もあると思います。
食事についての訴えが多く聞かれ、生ものや刺身類などについて、賞味期限が過ぎた物も「少し過ぎたくらいなら大丈夫だ。」と話すことがありました。おそらく在宅時にはそのようにしていたのだと思いますが、施設で本人の体調を管理していく上で必要なことを、制限と感じているのかもしれません。最近は食べる前にAさんに、「今日中に召し上がってくださいね。」と事前に話をすることで、理解を示してくれるようになりました。
⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。
まずはAさんとの関わりを増やすことが最優先ではないだろうか。軽作業やAさんが楽しめるプログラムを用意することで、Aさんと今以上に打ち解けることができ、会話にも思いやりが込められ、納得してもらえる環境になるのではないだろうか。
軽作業は、洗ったタオルを干すことです。Aさんからは、「誇りを持ってやってるんだ。」と話があり、意欲的に取り組んでいました。自発的に実施しているもので、Aさんの生活にとって必要なものと思ったからです。
Aさんとの関わりを増やしていく。なじみの関係の構築。
まずはAさんとの会話を増やすこと。居室やリビングなどでも積極的に会話を持ちかけ、Aさんの言葉を引き出せるようにすることです。
悩みを相談できたり、冗談を言って笑い合える関係を作ったりすることを想定し、現在構築されつつあります。
居室や生活空間の環境を、もっと暮らしやすいものにするための工夫をしていく。
Aさんが何かして欲しいと思った時に、速やかに対応できることかと思います。Aさんからは最近、「ここが一番いい。」という話もありました。
家族との連絡も密にし、Aさんの情報をできるだけ多く得る。
家族は面会にたびたび訪れており、何か変化があれば電話連絡もするようにしています。
Aさんの状況や状態をスタッフ一人ひとりが把握する。
全員が統一した目標を持ってケアを実施できることが予想されます。記録に細かく記載することで、それに基づいた話し合いをすることや、自分だけではなく他のスタッフへの周知ができると思います。
日ごろより、利用者の声を聴き、その人にとってふさわしい暮らしを提供しようと日々努力しています。
そしてその都度、利用者の声に対して関わりを増やしたり、対応を変えたりを繰り返していきます。しかし、その関わりのもとになった利用者の声は、本当にニーズだったのでしょうか。本人の声から聞こえてくる言葉に対し、すぐさまその言葉に合わせて対応しても、結果が出なかったり、利用者の要求通りに対応したのに、結果どころか増悪していってしまったことも多々あるかと思います。
その問題の鍵は、ニーズとデマンドの違いにあります。表面に表れた言葉だけでは本当のニーズとはならず、デマンドで終わってしまいます。本人の言葉のその心の中にあるノンバーバル(非言語的)な部分や想いを、専門職としての視点を含めアセスメントしていくことで、見えてくる本当のニーズを拾い上げていく作業が、事例をより良くしていくものと思います。
今回の事例は、そうした作業の繰り返しではなかったかと思います。