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事例ワークシート 事例46

A 課題の整理Ⅰ 援助者が感じている課題

① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。

・帰宅発言が多く、大声で繰り返すため、他利用者が落ち着かなくなる。
・「Cさんのパンツをあげる。」「赤い靴だよ。」等発言の意味が不明である(夫も、「Cさんに記憶がない。知らない。」とのこと)。
・好きなこと、環境を変えても帰宅欲求は治まらず、対応に困っている。

B 課題の整理 Ⅱ 援助者が想定する対応・方針

② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。

・夫が迎えに来るまで、好きなカラオケをしたりしながら、事業所で楽しく過ごして欲しい。
・Aさんから常に発言がある「Cさん」が誰なのか?安心して過ごして欲しい。
・Aさんができること、できないことをよく理解しながら落ち着いた時間を過ごして欲しい。

ひもとき?
Cさんが誰か知ることで、どのような関わりができるのでしょうか?
援助者の視点

訴えに対して話をする際に、かけ離れた話より、より近い話ができるのでは?と思います。

ひもとき?
Aさんができること、できないことをどのような方法で整理しましたか?
援助者の視点

センター方式のD-1シート(焦点情報[私ができること・私ができないことシート])。

③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。

・夫からの情報収集から、好きな歌のカラオケを歌ってもらったり、好みのDVDを流したり、側に座り話しかけたりする。
・また、外出(事業所の周りの散歩・車で)に誘って出かける。
・簡単な家事(洗濯物干し・たたみ、調理の下ごしらえなど)を一緒に行う。

ひもとき?
外出と家事は、Aさんにとって、どのような意味があるのでしょうか?
援助者の視点

バックグラウンド等で、外出が好きでよく出かけていたとの情報から。Aさんの表情を見ていると、外に出ることで表情も和らぎ、Aさんなりに納得しているように感じています。何か一緒に行うことでAさんなりにできると感じ、Aさんが不安より満足した状態になってくれれば、と感じます。何の意味があるのかは分かりませんが、今までの生活を参考にできることをケアしています。

C 本人の状態や状況を事実に基づいて確認してみよう

④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。

・表情が硬くなり、バッグを手に持ち、ブツブツと独語(「みんな帰るよ。」「Cさんの靴だよ。」「夫は仕事に行っていない。遊びに行っている。」「みんな早く行くぞ。」「夫のかばんだよ。」)などを発しながら玄関まで行き、靴を履いて外に出る。
・外に出るが、どこに行けばいいのか分からないので困った表情になる。一緒に歩くが遠くには行かない。バッグを手に持ち不安そうな表情で意味不明な独語を発する。

D 課題の背景や原因等の整理

⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。

思考展開シート

・夫が家にいないことが多いので、早く家に帰りたい。ここは家ではないため、夫の顔が見えない。
・子供、孫がいる家に帰りたい。Cさん?が心配?
・早く帰らないとみんなが心配する。

ひもとき?
「心配」とは、具体的に何がどのような状態なのでしょうか?
援助者の視点

はっきりと言葉で表現することが困難なので、スタッフは表情・行動(うろうろと歩き出す)・独語(「Dさんがいない。」「Dさんはパチンコに行った。」「誰もいない。」「Cさんがいない。」「パンツおろさないと。」など)で心配しているのでは?と思っています。

E 事例に書いた課題を本人の視点に置き換えて考えてみよう

ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。

⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?

・夫がいる家に帰りたい。夫の側にいたい。
・ここにいても何をしていいか分からない。やることがない。
・Cさん?が心配。

ひもとき?
Aさんは、どうして「ここにいても何をしていいか分からない、やることがない」と感じるのでしょうか?
援助者の視点

スタッフの声掛けがない限り、自ら行動に移ることが少なく、座っていることが多いです。スタッフの声掛けが少ないときにそう感じているのでは?と思っています。

F 課題解決に向けた 新たなアイディア

⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。

・不安な表情の時は外に誘ってみる。帰宅発言時、好きな曲のカラオケをかけ、隣に座って聞く。
・買い物、外出の機会を多くする。
・Aさんと一緒に楽しくできるアクティビティーを見つける。

ひもとき?
Aさんにとって、「外に出る」ことはどんな意味があるのでしょうか?
「楽しくできるアクティビティーを見つける」とありますが、具体的にはどのようなことがありますか?
援助者の視点

Aさんの機能低下防止と、気分転換を図るため。
Aさんが好んで参加する風船バレーや、カラオケ大会、買い物。

ひもときアドバイス

 自分の感情や訴えを言葉で表現できないということは、認知症の人には多く見られることです。Aさんの発話や動きなどから、Aさんの心境を推測して関わっているのだと思います。とてもよくAさんの様子を観察していることが分かります。また、Aさんの好みもよく把握しており、言葉でのコミュニケーションが難しいAさんに対して、スタッフが表情や行動から気持ちを考え、対応している様子が伝わってきます。
 さて、私たち介護者は、どうしても自分の物差しで決めつけてしまいがちです。Aさんの行動を見て、忙しそうと感じる人もいれば、楽しそうだと感じる人もいると思います。とらえ方は本当に一人ひとり異なっているものです。認知症の人は、言葉を媒介としたコミュニケーションが難しくなることがありますが、感情は私たちと同じように、刻一刻と変化していきます。その感情をうまくコントロールできず、歯がゆい気持ちになることは、私たちには到底理解できないのではないでしょうか。
 たとえいつもと同じように見える(思える)行動も、その背景にある感情は異なっているかもしれません。うまくいかないことばかり考えてしまいがちですが、うまくいっていることも必ずあると思います。どんなささいなことでも、それはヒントになります。
 私たちはあくまでも「本人のような」気持ちしか分かりません。100%同じ気持ちになることはできません。しかし、あたかも本人であるかのように感じ、味わうことは可能です。味わいが足りないと、本人の本当の訴えにはたどり着けないでしょう。Aさんの感情や欲求を決めつけてしまうことなく、できるだけ多くの選択肢を自分の中に用意しておくことが大切です。いろいろな可能性を考えておくことで、本人に少しずつ近づくことができるのではないでしょうか。
 また、本人が話すことが理解できず、現実とかけ離れた応答をしてしまっていても、本人の感情とかけ離れていなければよいのではないでしょうか。現実に沿ってケアをするより、その人の生き方に沿ってケアをする方が、より、個を大切にしたケアが提供できる場合もあるということを理解することが大切でしょう。

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