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事例ワークシート 事例27

A 課題の整理Ⅰ 援助者が感じている課題

① 事例にあげた課題に対して、あなた自身が困っていること、負担に感じていること等を具体的にみていきましょう。

夜間にぐっすりと寝られると良いのだが、眠りが浅いようで、不眠気味である。そのためか日中でも、うとうととすることが多く、目覚めても残眠感があり歩行時は足元がふらついている。そのような状態の時に、「ご飯を炊かなくては。」などと落ち着かず歩こうとするので、転倒が心配である。

B 課題の整理 Ⅱ 援助者が想定する対応・方針

② あなたは、この方に「どんな姿」や「状態」になって欲しいのですか。

夜はぐっすりと寝て欲しい。

ひもとき?
介護者側からの願望という意識のほうが強かったですか。
援助者の視点

当初はそうだったが、様々なアプローチや検討を重ね、思考展開していくうちに、本人の立場から考えるという視点に変わっていった。この点は、下記項目についても同様である。

ご飯のことや家のことを心配することなく、穏やかに日々を過ごして欲しい。

③ そのために、当面どんな取り組みをしたいと考えていますか(考えましたか)。

センター方式 D-3(生活リズム・パターンシート) D-4(24時間生活変化シート)を作成し、入眠及び生活のリズムを掴もうと試みた。

ひもとき?
実際に、センター方式D-3、4(生活リズム・パターンシート、24時間生活変化シート)を使用してみて、掴めたこと、わかったことがありましたか。
援助者の視点

センター方式に対する理解が不十分だったこともあるが、職員それぞれに見方や捉え方が違い、明確に何かを掴むということが出来ず、残念ながら活用することができなかった。

・アクティビティの活性化(外出・パチンコ)により日中の活動量を増やす。
・生活の場としての役割をもってもらう。(おしぼりたたみ、実際にご飯を炊く等)
・薬剤の服用調整。

ひもとき?
ドクターとは密接に連携が取れたうえで、服薬が行われていますか。
援助者の視点

常にドクターとは状況を話し合ったうえで、投薬をしてもらっている。

C 本人の状態や状況を事実に基づいて確認してみよう

④ 困っている場面で、本人が口にする言葉、表情やしぐさ等を含めた行動や様子等を事実に基づいてみていきましょう。

・<主に午後>
杖をつきながら歩行。職員を見ると、「○○行きのバスはありますか?」「帰らせてもらいます。」と声を掛ける。
傍にいる他の利用者には、「一緒に帰らない?」と誘っている。
・<夕方から夜にかけて>
夕食後ソファでうとうととして、一旦臥床。日によってはそのまま良く休むこともあるが、だいたい20時ごろには目を覚まし、居室で布団やカーテンを触ったり、靴下をはいてホールへ出て来たりする。
・「お粥をかけておかないと。」「あの子たち帰ってきたか?」「雨が降ってきたか?洗濯物をいれておかないと。」などの言葉あり。横になって休んでもらうように伝えると、「ゆっくりと眠っていられない。」と言葉をかえす。「夜でしょう、わかってるよ。」と言うときもあれば、「何するの、放っておいてくれ。」と言い、体に触れると「殺される。」と言うときもある。

ひもとき?
Aさんの部屋での普段の状況と、部屋の状態を聞かせて下さい。また、起きて来る時の状況をもう少し詳しく聞かせて下さい。
援助者の視点

居室の状況は、ユニット型ではなく、1フロア20名で、そのうち4名が個室になっている。Aさんは個室にいる。何故個室になったかというと、ふらつきが多く、転倒の危険性が高かったので、居室に畳を敷いて転倒事故に備えるためである。
また、夕食後にいったん休んでも、20時頃によく部屋の外に出て来て、その言葉の端々から、家事作業を行いたい旨の発言が多くみられる。

D 課題の背景や原因等の整理

⑤ 本人にとっての行動や言葉の意味を理解するために、思考展開シートを使って、課題の背景や原因を考えてみましょう。

思考展開シート

・薬の副作用。
・便秘薬を毎日服用しているが出ないことが多い。その場合は3日目に他の薬に替えて4日目に浣腸を行っている。

ひもとき?
便秘が、Aさんの不安定な症状に影響しているということはないでしょうか。
援助者の視点

若い時から便秘気味だった様子。確かに排便がないと落ち着かない状態が出てくる傾向があるので、このように便秘への対応を行っている。

・左頬の痛み(ボーエン病)。痛みは常時ではなく波がある様子。ひどいときは、「痛いよ、口まで痛い。死んだ方がましだ。」との言葉あり。
・性格は温厚で人付き合いも良く社交的。
・晴れた日に、「雨降る前に帰るわ。」という言葉が聞かれたことがある。
・子どもや孫の世話をしてきたが、今は昔のように世話をする相手がいない。

ひもとき?
今は昔のようにということですが、単に子供の世話だけだったのでしょうか。それとも何かの役割を持っていたのでしょうか。
援助者の視点

たくさんの子供を育てた後、孫を育てることも請け負っていた。そのような状況から永年誰かを世話する状況が続いていた。しかし、今はその相手がいない。

・洋裁・和裁が得意だったが、「眼鏡がないからしませんよ。」とのこと。手芸クラブでは興味がなさそうな様子である。
・音に敏感で、特に夜間は隣室の方の声で自分も起きる。

ひもとき?
個室ということですが、うるさくて気になるのか、その音から何か行動しなければならないと思ってしまうのか、どう感じているのでしょうか。
援助者の視点

うるさいと訴えるというより、どちらかというと、音が行動を呼び覚ますというか、何か仕事をしなければならないと感じてしまうのだと思う。起きてきてからの言葉の一つひとつに、これまでの生活で行ってきた事柄の端々が出てきている。

寒さが苦手のようで、膝掛けをケープのようにして羽織っていることあり。歩行時はその膝掛けをたたんで、抱えて歩くので余計にふらつくように思われる。

E 事例に書いた課題を本人の視点に置き換えて考えてみよう

ここで、この事例を本人の立場から、もう一度考えてみましょう。

⑥ 本人の言葉や様子から、本人が困って(悩んで)いること、求めていることは、どんなことだと思いますか?

家族との関わりの中で、妻として母として祖母として世話をしてきたその役割を果たしたい。

ひもとき?
具体的にもう少し詳しく聞かせて下さい。
援助者の視点

妻としての役割はもちろんのこと、たくさんの子供を育てた後、長男夫婦と同居していたが、長男の嫁が早くに亡くなり、孫も育てていく役割を担っていた。またこうして子どもや孫を育てていくことが、Aさんにとって生き甲斐にもなっていたのではないだろうか。

「帰らなくては。」「ご飯を炊かなくては。」と思っている時には不安なので安心させて欲しい。

F 課題解決に向けた 新たなアイディア

⑦ あなたが、このワークシートを通じて思いついたケアプランなど、新しいアイディアを考えてみましょう。

・施設内で何らかの役割を意識して、できる仕事をお願いする。
・おしぼりたたみを日課として行う。
・体験学習などで学生が来たときなどの接待。

ひもとき?
実際に行ってみてどのような状況でしたか。
援助者の視点

もともとおもてなしの心を持ち合わせている方で、学生たちに対してもおもてなしの役割を積極的に請け負ってくれる。しかし、実習が長期になると、学生を自分の家族(若しくは、自分の大切な人)として勘違いするようになり、混乱する時がある。

・「ご飯を炊かなくては。」という言葉が出たときに、実際にお米をといでもらい炊いてみる。
・子どもや孫の写真を見て、コミュニケーションを図る。
・家族との関わりを支援する。

ひもとき?
このようなアプローチの中で、Aさんに何らかの変化が見られましたか。
援助者の視点

具体的実施はまだまだこれからだが、Aさんの場合、特に家族との生活の結びつきが強く、今後もAさんのライフヒストリーやライフスタイルに関わったアプローチを行っていきたい。

ひもとき?
事例検討に取り組んでいただきましたが、あなたの当初の思いと思考展開していただいた後では、どのようなことを新たに気づくことができましたか。また、何を再度確認することができましたか。
援助者の視点

まだまだ課題解決のアプローチは実施途中ではあるが、Aさんを思考展開していく上でのスタッフとのやり取りの中で、スタッフに、本人の見方や捉え方について変化が現れていることに気付かされた。
ホールでうとうとと眠っている姿が、家の縁側で家事に疲れてうとうととしている普通の主婦の姿にだぶって見えてきた、というスタッフの感覚から、ならば、今現れている現象もかつて意気揚揚と頑張っていた主婦時代の姿ではないだろうかという意見であった。そう考えると、「寝てくれない、困った。」というスタッフ側の、「困った」の視点に変化が生じてきているといえるのではないかと思う。そのため、介護者の関わり方もその後変化があり、困った行動と見るより、本人の存在感を支える関わり方に変わってきていると思う。

ひもときアドバイス

 当初は、とにかく夜はぐっすりと眠ってほしいという、「介護者側」からの思いが主体になって、起きてきて色々と訴える行動そのものを困った行動としてみて捉え、そして、対処策を考えていたと思われます。
 しかし、Aさんのライフヒストリーを見つめなおす中で、これまでAさんを支えてきたもの、生き甲斐であったものが何であったかが、浮き彫りにされてきたように思われます。
 そして、ライフヒストリーをひもとく中で、この方のライフスタイルも見えてきた、さらに、今ある行動が、そのライフスタイルと大きく関わっているのではないかと考えたのではないでしょうか。
 そのため、ぐっすり寝てほしいという介護者側からの視点、現象だけを見て判断する視点から、様々な人生を経てきたひとりの人としての行動として尊重する視点に、変化してきたのではないかと思われます。このような転換的な「気づき」が現場にある(生じさせることができる)ことが重要ではないかと感じさせてくれた事例でした。

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